「アメリカンV8のイメージを覆すモンスター911」最高速287キロをマークする驚異のメイキング!

富士の本コースでは1分50秒フラットをマーク!

何に積んでも楽しめるアメリカンV8の魔力

富士スピードウェイのラップタイムが1分50秒フラットの空冷911(タイプ930)と聞くと、まずはツインターボで武装した過給機モンスターの姿を頭に思い浮かべることだろう。しかし、横浜の“スーパーマシーン”が手掛けた930はそれをNAで達成している。

ちなみに、タイプ991のNA最高峰モデルたるGT3RSでも吊るしだと50秒切りがやっと。それを40年近くも前のマシンをベースに成し遂げたところがまず称賛に値するのである。

アメリカンV8というと未だに“デカくて重い”と思う貴方は完全な時代遅れ。スモールブロックのLSシリーズはその名の通りコンパクトかつ、アルミ製のシリンダーブロックを採用することから軽量性にも優れるのだ。ドライサンプ式のLS7はオリジナルの空冷フラット6と比べても50kgも軽量で、重心も低く搭載できるのもメリット。

「エンジンはポルシェ製のフラット6ではなくGMパフォーマンス製のLS7に換装してあります。7リッターのアメリカンV8 OHV。コルベットのC6 Z06に搭載されていたことでも有名なエンジンですね。パワーとトルクはクレート(木箱に入れられて出荷)の状態で505hp/630Nmを謳うレーシング直系のハイスペックユニットです」。

スーパーマシーンの渡辺智也代表が、この“930/LS7”を手掛けたのは今から10年以上も前のことだった。当時は「空冷ポルシェにアメリカンV8を載せるなんて邪道!」との声も聞かれはしたが「そんなことは一切気にならなかった」という。

「アメリカではV8スワップ、中でもコンパクトで軽量なスモールブロック(アルミブロック)であるLSシリーズを用いるチューニングはその頃からポピュラーでしたから。ポルシェでも空冷、水冷問わずLSにスワップする例も多かった。レネゲード・ハイブリッド(Renegade)などの専門ショップも存在します。ただ、LSシリーズでも最高峰のスペックをもつLS7やLS9を空冷911に積む例はアメリカでも少ないですね。ドライサンプユニットなのでイチからオイルラインを作り直す必要があったりと技術的にも何かと面倒な部分が多いですし、あとはなんと言っても930の小さなボディには明らかにオーバースペックですから(笑)」。

実際、930/LS7は途方もない速さを秘めている。冒頭にも記した富士のラップタイムを記録した際のストレートエンドでの最高速は287km/hに到達したというのだから恐ろしい。トランスミッションは930ターボ用の4速MTを用いてハイギヤード化。3速で悠々200km/hオーバーという超高速クルーザーとしての表情までをも併せ持つのだ。

「7000rpm以上回るけれど5000を超えたらストリートではもう怖くて踏めない。仕事柄、大パワーのマシンにもたくさん乗ってきましたが、この速さは別格。もちろん、パワーをしっかりと路面に伝えるために足回りもすべてアップデートしています。空冷ポルシェの旧態然としたトーションバーはコイルオーバーにしてフルピロ化。ダンパーはザックス・レーシング(現ZFザックス)で専用品を設えて、アーム類はポルシェのレースマシン製作でも定評のあるエレファントやタレットといったアメリカのトップブランドのものを総動員しています」。

当初はゲテモノ扱いされた“LSチューンド”の先駆者

スーパーマシーンが手掛けた930/LS7はその装いも“アメリカン”なテイストを貫く。外装は往年の北米“IROC”シリーズを戦ったRSR3.0のスタイルをオマージュ。サイドミラーにはコルベットC3スティングレイのものを流用するなどさりげない遊び心も忘れない。さらには特殊な下地処理による奥行きのある輝きが特徴のブルーメタリック塗装など、アメリカン・カスタム&チューニングならではの一癖あるテクニックが随所に見て取れるのだ。

今でこそアメリカンV8のLSシリーズをスワップする手法は日本でもすっかりポピュラーになっている。「Attack筑波」にエントリーしたタイプ993のタイムアタックマシンや、年始の東京オートサロンで話題となったE36型M3などもLSエンジンを搭載している。さらには、ドリフトの世界でもLSスワップは定番とされるなどすっかり市民権を得た状況だ。しかし、スーパーマシーンがこの930/LS7を世に送り出した2009年頃はまだはっきりと“ゲテモノ”扱いされていたことも事実。そんな過去も、渡辺代表はこう笑い飛ばす。

「人より二歩も三歩も先を行くのがカスタムの本来の姿。最初は理解されないことをしっかり形にして、やがてそれを真似する人が出てくるくらいがちょうどいいんです」。

「正直に言うと僕の中ではLSスワップはもはや過去のものです」と、渡辺代表は涼しげな顔をして言う。先述の通り、彼がこの930/LS7を手掛けたのは今から13年も前のことであり、その後もタイプ993をベースにLS3(6.2L/436hp)をスワップしたマシンも製作しているから、「今となってはつまらない=飽きた」という真っ直ぐな発言も、常に先を見据えて突き進むカスタムビルダーの本音として捉えれば違和感なく受け止めることができる。

「実際、ドライサンプのLS7は今ではその生産自体が終わってしまっています。同じくドライサンプのLS9(6.2Lスーパーチャージャー/647hp)も終了しました。要はより刺激的でパワフルなLSはもう新品のクレートでは買えないということ。もちろんウェットサンプのLS3辺りがいちばんバランスもよくてお勧めできるのですが、ウェットだとオイルラインの加工もなく簡単に載せられてしまうし、何より刺激が足りなくてビルダーとしては面白くない(笑)。あとはやっぱり、LSスワップ自体が世の中ですっかり市民権を得てしまったことも、人と同じことをするのが嫌いな性分の自分としては、もはやそれがすっかり過去のものとして映ってしまうのです」。

では、はたして今はその先に何を見ているのか?

「個人的にはトラック(シボレー・シルバラード)用のL9シリーズですね。鉄ブロックだから丈夫ですし、こいつにターボを組んだら相当に刺激的なエンジンが仕立てられる。馬鹿っ速いトラックというのは日本ではまだ馴染みがないし、アメリカンV8にターボを組むこと自体新鮮でもある。制御の面で言うとホーリー(Holly)が凄い。元々はキャブ屋のイメージが強いですが、今はインジェクションの領域でも最先端を走っています。ターボ制御はブーストコントロール付きも用意されているし、見た目はキャブ風のインジェクションといった具合に、好きモノの求めるツボをきちんと押さえてもいる。アメリカンV8のチューニングの世界って本当に奥が深いんです」。

渡辺代表のチューナーとしての守備範囲は広い。最近ではダットサン240Z(S30)を渾身のレストモッドへと仕立て話題を集めた。L28をベースにボアアップとストローカーで3.1L化。各部をセオリー通りに強化した上でキャブレーター風のスロットルが付いたインジェクションを用いてより現代的な、まさにレストモッド的な乗り味を実現している。内外装もとことん拘り、スーパーマシーンのアイデンティティとなるアメリカンなテイストもしっかりと落とし込まれている。

「S30ZのL型チューニング(L28改3.1L)をここしばらくは楽しんでみたりもしたけれど、正直な想いとしてはV8の刺激には敵わない。それこそポルシェにもトラックにも積んで楽しめる幅の広さこそが、アメリカンV8の本質を示していると思いますね」。

日本のチューニング黎明期にもアメリカンV8はある意味そのメインストリームを歩いていた。ゲイリー光永パンテーラもそうだし、トラスト大川トランザムもまた然り。きちんと調教されたチューンド・アメリカンV8はまさに、最高の刺激と確かな速さを乗り手にもたらしてくれる。国産でも輸入車でも、新世代でも旧車でも、“アメリカンV8スワップ”という手法を選ぶ層が増えたらなら、それはきっと面白いことになると思う次第である。

TEXT:高田興平/PHOTO:真壁敦史
取材協力:スーパーマシーン 神奈川県横浜市都筑区大熊町861-1 TEL:045-507-6146

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スーパーマシーン
https://www.supermachine.jp

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