「下着メーカーが作った国産スーパーカー!?」リヤミッドにF1エンジンを積んだジオット・キャスピタという奇跡

リヤミッドにジャッドV10エンジンを搭載!

『F1 ON THE ROAD』をコンセプトに開発

往年のレースファンならよく覚えてると思うが、1980年代半ばから後半にかけてトヨタ、童夢とタッグを組み、グループCカーであるトヨタ童夢84/85/86/87Cのメインスポンサーを務めたのが、女性用下着メーカーのワコールだ。

後、日本が好景気に沸いたバブル期には男性向けブランドを開発するための会社、“ジオット”を設立。そのイメージリーダーとして誕生したのが、2シーターリヤミッドシップスーパーカーのキャスピタだった。

ジオットキャスピタは、1989年9月にプロトタイプが完成。リヤミッドに搭載されたエンジンは、スバルとイタリアのレーシングエンジンコンストラクター、モトーリモデルニ社が共同開発した3.5Lフラット12だった。

このエンジン、翌1990年にはイタリアのF1チーム、コローニに供給されたことで知られるが、F1用エンジンとしてはパフォーマンスも信頼性も低く、エントリーした6戦で全戦予備予選落ちという屈辱的な戦績しか残せなかったことは、当時のファンなら覚えているだろう。これによってスバルモトーリモデルニはF1から撤退。ジオットキャスピタに搭載されての市販化も白紙に戻ってしまった。

普通ならそこで計画中止となってもおかしくないが、簡単には諦めなかったのがジオット。プロトタイプの発表から4年が経った1993年、フラット12に代えて、これまた当時のF1マシンやグループCカーで使われたジャッドV10搭載のナンバー付きモデルを送り出してきたのだ。

ボディサイズは全長4534×全幅1996×全高1136mm、ホイールベース2700mm。シャシーはグループCカーと同じフルカーボンモノコック製(重量わずか85kg)、ボディカウルもオールカーボン仕様とすることで、車重は1240kgに抑えられていた。

エンジンは72度のバンク角を持つV型10気筒のジャッドGVで、制御はザイテック社製ECUが担当。グループCカー用をベースに、ストリート走行を考慮してデチューンされているが、それでも585ps/1万750rpm、39.2kgm/1万500rpmという超ド級のスペックを誇った。ちなみに、有効回転域は7000rpm以上。いくらストリート向きに仕立て直しても、レーシングエンジンの素性までは隠し切れなかったということだ。

ターは1万2000rpmフルスケールとなる。センターコンソールには油温と油圧のコンビメーターも装着。また、シフトレバー前方に並ぶスイッチでダンパー減衰力や車高、リヤウイングの高さなども調整できる。

そこに組み合わされたミッションは、マクラーレンやウィリアムズなどにF1マシン用ミッションを供給していたトラクションプロダクツ社製の6速MT。キャスピタ用に専用設計されたもので、6速直結、ファイナル比は3.479と、超高回転型のエンジン特性に合わせて、かなりローギヤードな方向に振った設定とされていた。

サスペンション形式は前後ダブルウィッシュボーン。ショウワ製ダンパーユニットが組み合わされ、リヤサスは当時F1マシンの多くがそうであったようにプッシュロッドを介して作動する。また、油圧によってプッシュロッド長を変えることで、最低地上高は130mmと70mmの2段階で切り替え可能。減衰力もソフトとハードをセレクトできる。

フロントブレーキはブレンボ製4ポットキャリパーに2ピースドリルドディスクローターの組み合わせ。ローター径は前後とも254mmとされる。マスターバックを持たないつくりはレーシングマシンそのもので、ホイールもセンターロック式となる。

気になる動力性能だが、最高速テストまではやってなかったものの450ps仕様で280km/hをマーク。シミュレーションでは585ps仕様で300~320km/hという数字が弾き出されていた。

マフラーエンドをナンバープレートの両サイドに配置することで、フロア下面のフラットボトム化とリヤのディフューザー化を実現。ホイールはボルクレーシンググループCで、当時の市販モデルとは異なるマグネシウム製。リム幅はフロント9J、リヤ13Jとされ、順に245/40、335/35サイズのダンロップパフォーマ8000スペシャルが組み合わされる。

ナンバー付きモデルの登場で市販化も大いに期待されたが、結局、生産されたのは1台だけ。そもそもが男性用下着ブランド、ジオットのイメージリーダーカーとして誕生したことに加え、バブル景気の崩壊により、実はワコールが市販化に向けての開発資金を捻出できなかったという事情もあったのでは…と推測する。

ともあれ、ジオットというブランドも、そこから生まれたキャスピタというスーパーカーも、バブル期だからこその壮大なロマンに満ち溢れていたことだけは確かだ。

●TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)

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