「販売台数はケンメリRの半分以下!?」VZ-Rシリーズでもルキノクーペの希少性は別格だ!

伝統でも競技ユースでもない…コイツの存在理由はなんだ?

弾けるパワーとレスポンス!もしかしてVTECより良いかも!?

セダンボディの8代目B14サニーに遅れること4ヵ月、1994年5月にノッチバック2ドアクーペのサニールキノが追加された。当初のグレードは、GA15DE(105ps)搭載の1.5GG/MMと、SR18DE(140ps)搭載のスポーティモデル、1.8SSの3つ。

1997年9月のマイナーチェンジで、車名からサニーが取れてルキノに変更。同時に1.8SSに代わってカタログモデルに加わったのが今回取材したVZ-Rだ。

エンジンは、バルブタイミングとリフト量を連続可変させるNEO VVLを備えた日産屈指の高回転高出力型ユニット、1.6L直4DOHCのSR16VE。ボア径はSR20と同じφ86.0ながら、ストローク量が約18mmも短い68.7mmにショート化。ボアストローク比は0.798で、4A-Gの0.950(φ81.0×77.0mm)、B16A/Bの0.9558φ81.0×77.4mm)、4G92の0.956(φ81.0×77.5mm)に比べるとSR16VEの特異性が見えてくる。

実はその数値、ショートストローク型エンジンの代表格と思われているEJ20の0.815(φ92.0×75.0mm)さえも上回っているのだ。当時、トヨタ4A-G(VVT)、ホンダB16A/B(VTEC)、三菱4G92(MIVEC)と、各メーカーとも可変バルタイ機構をブチ込んだスポーツエンジンを用意。その頃のテンロククラスは今では考えられないほど“激アツ”だったのだ。

そんな中、ルキノクーペVZ-Rだけは少し異質で、「2ドアクーペにこんなモデルが必要か?」と思わずにはいられなかった。ライバルを見ると、レビン/トレノGT系は歴代2ドアクーペが用意されていたのでそれが伝統みたいなものだし、ミラージュアスティRSは競技系ユーザーの需要を見込めるなど、明確な存在意義があった。

が、ルキノクーペの場合、VZ-Rが必要な理由がどこにも見つからないのだ。販売台数稼ぎのために、ノリと勢いで作ったような気がしてならない…。案の定、販売面は惨敗の状態で、生産台数はまさかの2桁。わずか1年4ヵ月という生産期間を差し引いても、マニアな限定モデルよりもよほどレア度が高いのは確実だ。

生産台数が極めて少なく、存在理由もハッキリしない時点で“変態グルマ”であることは確定だが、それに輪をかけるのがルキノクーペVZ-Rの生い立ち。VZ-Rはサニーセダンやパルサーセリエ、ルキノ3ドアハッチバック/S-RV(5ドアハッチバック)にも設定されたが、サニーセダンはB15、それ以外はN15パルサーがベース。

にも関わらず、ルキノクーペだけはB14…つまり、一世代前のモデルにSR16VEを載せているのだ。同じルキノでもハッチバックは車両型式がB15になるから、実にややこしい。

実車を間近に見ていこう。サイドフォルムが実はDCインテグラに似ているルキノクーペVZ-R。外装デザインはお世辞にもスタイリッシュとは言えず、レビン/トレノあたりに比べると、少々ヤボったさを感じさせるところが最高だ。

室内に目を移してみる。ベースは大衆車のサニーだが、しっかりデザインされた感のあるダッシュボード。スポーティなホワイトメーターはスピード、9000rpmフルスケールで8000rpmからがレッドゾーンとなるタコメーター、その両脇に水温計と燃料計が備わる。

ミッションは5速MTのみの設定となるVZ-R。取材車両はニスモのシフトノブ以外にテイン車高調も入っていて、それなりに走っていたであろうと想像できる。

サポート性はまずまずの前席。シートリフターが付いているが、高すぎるイニシャル位置がたまに傷。

後席は身長176cmの筆者でもしっかり乗れるスペースを確保していた。ただし、リヤウインドウが頭上にまで回り込んでいるため、夏場の直射日光は厳しいと思われる。

さて、いよいよ試乗だ。走り出してまず思ったのは、「意外と低中速トルクもある!」ということ。超ショートストローク型エンジンだし、ホンダB16A/B以上に高回転高出力型な特性だと思っていたので、これは少し想定外だった。4速2500rpm付近からでも普通に加速していくし、日常域での扱いやすさは十分に合格点だ。

しかし、SR16VEが本当に面白いのは中高回転域。8000rpm手前までパワー感が途切れることなく鋭く吹け上がる様は、いかにも超ショートストローク型らしい。しかも、至ってスムーズ。調べてみると、5000rpmでまず吸気側が、7000rpmで排気側が高速カムに切り替わるようだ。そのため、吸排気カムが同時に切り替わり、ある回転域を境にスイッチが入ったようにエンジン特性が劇変するホンダVTECとはまるで印象が違う。

当時は、VTECにコテンパンにやられたNEO VVL。だからこそ今、あえてVZ-Rを選ぶのがお洒落だと激しく思う。それがルキノクーペだったら最強だ。なにせ生産台数は、あのケンメリGT-R(197台)の半分以下という希少性。れっきとしたカタログモデルでありながら、ある意味、伝説を打ち立てたわけだから、それはもはや奇跡と言っていい。

■SPECIFICATIONS
車両型式:JB14
全長×全幅×全高:4285×1690×1375mm
ホイールベース:2535mm
トレッド(F/R):1470/1435mm
車両重量:1110kg
エンジン型式:SR16VE
エンジン形式:直4DOHC
ボア×ストローク:φ86.0×68.7mm
排気量:1596cc 圧縮比:11.0:1
最高出力:175ps/7800rpm
最大トルク:16.5kgm/7200rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(F/R):ストラット/マルチリンクビーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:FR195/55R15

TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Hiroshima Kentaro)

キーワードで検索する

著者プロフィール

weboption 近影

weboption