「お前は間違いなく時代の寵児だったよ!」シャリオMRターボの魅力を再考察してみた

MRターボは当時、間違いなく時代の最先端を行っていた!

車重の軽さと十分なトルク、3速ATの走りに不満無し

初代シャリオは1983年2月に登場。1983年というと、芸能界では森尾由美や富田靖子、大沢逸美、横浜銀蠅の妹分で岩井小百合がデビューし、映画だとキャノンボール2、あいつとララバイ、積み木くずし、戦場のメリークリスマスが封切されるなど、40代以上のオッサン世代なら記憶に残る年だろう。

前年、日産がセンターピラーレスボディにリヤ両側スライドドア採用、変則的な3-3-2のシート配列で8人乗りを実現した初代プレーリーを世に出していたが、初代シャリオはその対抗馬と呼べる存在だった。

ベースは、初代ミラージュの兄弟車でもあるトレディア。シート配列は2-3-2の7人乗りと、2列目がセパレートシートで3列目との回転対座を実現した2-2-2の6人乗りが用意されたが、回転対座モードでは足元スペースが狭すぎ、まるで使えない…との理由から、6人乗りは前期型のみで姿を消すという悲しい過去があったりする。

ともあれ2ボックスで3列シートという、斬新なパッケージをカタチにしただけでも立派だというのに、何を思ったのか三菱、初代シャリオの発売からわずか5ヵ月後にターボモデルを投入したのだ!

前ヒンジのボンネットを開けると現れるのは、インタークーラーレスのA175ランタボ前期型と同じ1.8L直4SOHCターボのG62B“シリウス”エンジン。1.8L NA(G62Bとはストローク違いのG37B)の85psから50psのドーピングを行ない、135psを絞り出していたのだから驚かされる。

ボア×ストロークは80.6φ×88.0mm(1795cc)で、NA版G37Bはストローク量を86.0mm(1755cc)にショート化したもの。また、G62Bのボア径を85.0φ(1997cc)に拡大したのが2.0L版のG63Bで、それを4バルブDOHC化(SOHC仕様もあり)したものが4G63になる。

燃料供給はSPI(シングルポイントインジェクション)方式を採用。スロットルバルブの上流にインジェクターが1本だけ備わり、各シリンダーに混合気を送り込む。キャブから、各シリンダーに1本ずつインジェクターを持つ今時のMPI(マルチポイントインジェクション)への移行期に見られた燃料供給方式だ。

またMRターボのミッションは、三菱のFF車初となる5速MTと3速ATが用意された。

後、初代RVRや2代目シャリオのリゾートランナー系にギャランVR-4/ランエボ譲りの4G63ターボが搭載されることになるが、その伝統(!?)は初代シャリオに始まったと言って良いだろう。

取材車両のMRターボは、イメージカラーであった赤/黒2トーンのボディ色。ボディサイドには“CHARIOT TURBO”のロゴデカールが誇らしげに入っている。

室内に目を移すと、まずステアリングハンドル中央のホーンパッドに堂々と“TURBO”の文字。トレイ状になったダッシュボード上部や助手席前の2段式グローブボックスなど使い勝手はよさそうだ。メーターパネルは右側にタコメーター(下にブースト計)、左側にスピードメーターが並び、その間に燃料計と水温計が上下に配置される。

前席はサイドサポートの張り出しが大きく、スルータイプのヘッドレストも採用されるなど、見るからにスポーティ。思うに、どうやら三菱は本気でスポーティモデルに仕立て上げようとしていたらしい。しかし、このシート、当初はMRターボ専用だったのに、後1984年5月に登場した4WDも共用することになった。

2列目シートは座面こそ一体型だけどスライド機構が与えられ、背もたれは50対50分割で独立リクライニングが可能。3列目シートへのアクセスを容易にするウォークイン機構も採用されている。

3列目シートは背もたれが短めだが、上下前後方向ともに大人2人がしっかり乗れるスペースを確保しているのが素晴らしい。また、左右独立リクライニング機構を持つ他、ダブルフォールディングでラゲッジスペースの拡大も可能だ。タイヤハウス上部にはフタ付きのドリンクホルダー&小物入れも用意されている。

2列目を一番前に出してヘッドレストを抜き、フルリクライニングさせると2~3列目でフルフラットを実現。こんな芸当は当時、ハイエースやキャラバンといったワンボックス車の特権だったから、セダンに毛の生えたようなクルマ(失礼)でシートがフルフラットになるのは実に画期的だった。

「セダンの運転感覚と、キャブオーバータイプワゴン(つまりワンボックス)の優れた居住性を両立」という三菱のうたい文句に偽りなしだ。

ちなみに、MRターボが登場した1983年7月から1984年5月まで、1.8LモデルはNAとターボで違う型式のエンジンを搭載していたにも関わらず、全て車両型式がD03Wだったため、NAかターボか車両型式では判断できないという事態が発生。そのため、1984年5月以降はターボ(G62B搭載)がD03W、NA(G37B搭載)がD05Wと区別されるようになったのは、初代シャリオの基礎知識として覚えておくべし。

運転席に座ると、ウインドウが大きくて開放感抜群の視界と、このテのクルマにしてはやらたとサポート性が良いシートとのギャップに思わず笑ってしまう。

ATセレクターレバーでDレンジを選んで発進。「3速ATだから走りは…」という先入観とは裏腹に、2000rpm付近ですでに十分なトルク感があって、2500rpmからはターボ過給の効果もバッチリ。実はこの日、比較試乗で1.8L NAの5速MT車(初代シャリオMX)にも乗ったのだが、エンジンのトルク感で言えば全域でNAを上回っているのは間違いない。

もちろん、思いのほか軽快に走るのは、そんなトルク特性だけでなく1150kgという車重の軽さも大きく効いていることは言うまでもないだろう。

さらに、3速ATのギヤ比が絶妙で80km/h時のエンジン回転数は3000rpm弱。ということは、計算上100km/h巡航なら3500rpm前後になるわけで、これなら高速道路を使った長距離ドライブも大きなストレスなくこなせそうだ。このあたり、トルクに余裕があるターボエンジンだからファイナル比を若干高めにして…という設計がなされているのかもしれない。調べたわけではないため、あくまでも推測の域を出ないが。

それにしても、初代シャリオMRターボは三菱の意欲作だったと今さらながら思う。ただし、これは初代RVRにも同じことが言えるが、残念なのは代が新しくなるごとにどんどん普通のクルマになってしまったことだ。だからこそ、デビューから40年近くが経過した今でも、初代シャリオMRターボはその魅力を全く失っていないのだ。

■SPECIFICATIONS
車両型式:D03W
全長×全幅×全高:4445×1640×1525mm
ホイールベース:2445mm
トレッド(F/R):1410/1375mm
車両重量:1150kg
エンジン型式:G62B
エンジン形式:直4SOHC+ターボ
ボア×ストローク:φ80.6×88.0mm
排気量:1795cc 圧縮比:7.5:1
最高出力:135ps/5800rpm
最大トルク:20.0kgm/3500rpm
トランスミッション:3速AT
サスペンション形式(F/R):ストラット/トレーリングアーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤサイズ(F/R):185/70-13

TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Hiroshima Kentaro)

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