「時代を先取りしたホンダの英知」元祖国産FFホットハッチと言えばシビックRSだ!

CVキャブ2連装に専用セッティングの足回りを採用!

持て余さないボディサイズ、全幅は現行の軽自動車並み

実車を前にしてまず思ったのは、想像していたよりも遥かにコンパクトなクルマだということ。全長3.6m、全幅1.5m、ホイールベース2.2mという寸法は、筆者が個人的に10年以上所有しているマーチスーパーターボよりそれぞれ10cm小さく、むしろ軽自動車に近いサイズなのだから当然だ。

フロントに横置き搭載されるエンジンは、1.2L直4SOHCのEB1型。ベースグレード用に対して圧縮比を高めたGL用エンジンに、全回転域で最適な吸気流速が得られる、CV(負圧)型可変ベンチュリーを持つ京浜製CVキャブを2連装。パワーで7ps、トルクで0.1kgmアップの76ps、10.3kgmを発揮し、最高出力の発生回転数も500rpm引き上げられた高回転型ユニットとなる。また、写真では確認しにくいが、取材車両は本来SB1には装着されないブレーキブースターを追加。軽いペダル踏力で確実な制動力を発揮するように手直しされ、安心感を高めている。

そこに組み合わされるミッションは、シビックシリーズ初の5速MT。併せて、前後ストラット式サスにはダンパー減衰力、バネレートともに高められたRS専用品がセットされる。

座面の生地が破れてしまったため、同様の素材で張り替えられたという運転席に座ってみるとサポート性は良好で、意外なほどに室内は広々。リヤシートは背もたれが低めだが、前後方向、天地方向ともにしっかり座れるスペースが確保されているため、大人4人なら快適に移動できる。

後のホンダ車にも見られる低いダッシュボードも開放感を演出するのにひと役買っている。インテリアはオリジナル状態を保ち、純正ウッドステアリングはグリップ部をレザーで巻き直している。

また、右フロントのタイヤハウスが室内に食い込んでいるため、ペダル類は全体的に左にオフセット。始めは違和感を覚えたが、走り出してしまえば、それほど気になるものでもない。

メーターは180km/h&7000rpmフルスケールのスピード&タコメーターの他、センターに燃料計と水温計、助手席側にアナログ式の時計が配置される。

この時代、すでにオーバーヘッドコンソールを標準装備。ドアの開閉に連動して点灯/消灯するルームランプの他、前後左右席用のマップランプまで備わる。

ラゲッジルーム側から見た、リヤシートの背もたれを起こした状態と倒した状態。一体可倒式で、背もたれ裏側の中央に設けられたレバーを操作するだけでフォールディングできる。ボディサイズと室内空間の広さを考えれば、ラゲッジルーム容量は十分に実用的だ。

RSワタナベのマグネシウム製エイトスポークに、175/60R14サイズのアドバンネオバを装着。ノーマルに比べてグリップ力は大幅に高まっているが、足回りが負けている印象はない。ちなみに、ホイールのPCDは120。砲弾型のフェンダーミラーが時代を感じさせる。

前後、左右方向ともにストローク量が大きめながら、ギヤの確定感がしっかりしているシフトレバーで1速を選んでスタート。絶対的な数値だけを見れば頼りなく思えるが、わずか700kgの車重に対して排気量1.2Lのトルクは必要にして十分。気持ちアクセルペダルをアオリ気味にクラッチペダルをリリースすれば、気難しさをまるで見せることなく発進する。

キャブセッティングが決まっているおかげで、エンジンレスポンスは全回転域で良好。マフラーはノーマルだが、まだ触媒の装着が義務付けられてなかった古き佳き時代のスポーティカーだけに、エキゾーストサウンドは「これでノーマル!?」と思わせてくれるほど音量、音質とも耳に心地良い。

ゼロ発進から力強い加速を味わせてくれるが、パワーの盛り上がりを感じるのは3000rpm付近から。国産車にDOHCが蔓延した今では、どうしても旧態然としたイメージを拭い切れないシンプルなSOHCだが、そうとは思えないほど吹け上がりは軽快。タコメーターの針は、易々と6000rpmオーバーの領域に飛び込む。

ちなみに、6000rpmまで回した時の車速はメーター読み1速50km/h、2速80km/h。小排気量車にありがちなローギヤード化による非力感の解消という手法は、少なくともシビックRSには当てはまらない。軽量なボディと、十分な動力性能を与えるエンジンがあれば、小手先の誤魔化しは無用…というわけだ。

サスペンションは、ノーマルにしてはなかなかハード。適度に締め上げられた車高調が組まれているような印象で、ショートホイールベースと相まって荒れた路面ではピッチングも大きめ。ただ、不思議と不快な感じはしない。いや、むしろ軽快なエンジンフィールと合わせて、スポーティモデルであることを乗り手に伝えてくれるポイントだ。

パワーアシストを持たないステアリングは、ノーマルの155幅から175幅に交換されたタイヤもあって、据え切りこそ「よっこらしょ!」という感じだが、走行中は必要以上の操作力が求められることはない。

コーナリングは「楽しい!!」の一言。ステアリング操作に対するノーズの反応は思いのほか鋭く、固められた足回りによってロール感を伴うことなくコーナーをクリアする。もちろん、限界域まで攻めればFF特有のクセが顔を出すのだろうが、少しペースを上げて走る分にはトルクステアこそ感じるものの、ステアリングインフォメーションが確かな、良く曲がるFF車という印象に終始する。

排ガス規制が厳しくなっていく中で発売したシビックRSに対して、ホンダは当時「RS=ロードセーリング」と説明した。いわく「道路を帆走するように、遠くまで滑らかに走るクルマ」だと。

が、試乗を終えて確信したのは、それが苦肉の言い訳であったということ。同時に、スポーティであることを大声で謳えなかった時代に、これほど走りが楽しいクルマが存在し、それを今でも満喫できる事実に嬉しさを覚えた。

今でこそコンパクトカーは2ボックスのFFが当たり前になったが、それを40年も前に実現し、スポーティモデルまでラインナップ。時代を先取りした、いかにもホンダらしい1台と言える。

■SPECIFICATIONS
車両型式:SB1
全長×全幅×全高:3650×1505×1320mm
ホイールベース:2200mm
トレッド(F/R):1305/1335mm
車両重量:705kg
エンジン型式:EB1
エンジン形式:直4SOHC
ボア×ストローク:φ70.0×76.0mm
排気量:1169cc
圧縮比:8.6:1
最高出力:76ps/6000rpm
最大トルク:10.3kgm/4000rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(F/R):ストラット
ブレーキ:Fディスク Rドラム
タイヤサイズ(F/R):155SR13

TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)

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