「S13シルビアにアメリカンV8エンジンを換装!」これが本場のホットロッド・ドリフトスタイルだ!!

S13シルビアがホットロッド・ドリフターに大変身!

本場のノウハウが詰まったV8+8連スロットル搭載

アメリカのモータースポーツシーンにおいて、すでに確固たる市民権を得ている“ドリフト”。今やフォーミュラ・ドリフトのトップドライバーともなれば映画スター並みの地位と名声を得られるため、プロドライバーを目指す若者は後を絶たない。

今回紹介するS13のオーナー、パブロ・カブレラ(左)もその一人だ。フォーミュラ・ドリフトには『プロ・アマ ライセンスシリーズ』と呼ばれる各地の独立系レースが存在し、そこで優秀な成績を収めたドライバーは翌年のフォーミュラ・ドリフトの参戦権を得ることができる。

パブロはその中のひとつ『JUST DRIFT』が運営する『TOP DRIFTシリーズ』に参戦。2016シーズンの総合結果は7位と振るわなかったが、プロのドリフターとして成り上がる夢は全く諦めていない。

ティーンの時に映像で見たドリフトに衝撃を受けて以来、ドライバーとしての腕を磨く一方、独学でチューニング技術も身につけてきたパブロ。現在の職業はカリフォルニア州オレンジにある『V’s Automotive(ブイズ・オートモーティブ)』で働くプロのファブリケーターだ。ショップで取り扱うクルマはコブラやマスタング、カマロといったアメリカン・ホットロッドで、高度な技術を要するファブリケーションを業務としている。

同ショップの代表を務めるブラド・ヤンシェブは、いち従業員であるパブロのドリフト活動を力強くバックアップしてくれている。シリーズ戦ではタイヤだけで1日に3000ドルもかかるそうだが、資金面の協力も惜しまない。「その分、バリバリ働いてもらうからね」と、ブラドはいたずらっぽく笑う。

二人の出会いは偶然。自らの手でコツコツと仕上げたS13のパワーを知るため、パブロはたまたま家の近所にあって、ダイノパック(シャーシダイナモ)を所有していたブラドの店を訪れた。つまり最初は客だったのである。その時、S13の完成度に驚いたブラドがパブロをスカウト。そこから全てが始まったというわけだ。

S13のマシンメイクは独特だ。エンジンは、キャデラックやシボレーのピックアップトラックに積まれるLQ9型V8ユニットを搭載。排気量を6686ccにアップするストロークキットを採用した上で、同じくGM製V8のLS3からヘッドを流用している。

吸気系にはボーラ・インダクションのI.T.B.(8連スロットルボディ)をセット。そのセッティングにはコブラで蓄積したノウハウが活きているそうだ。

オイルクーラー後方に確認できるブルーの筒はアキュサンプシステム。油圧が設定以下になると、タンク内に蓄えられているエンジンオイルが圧縮エアの圧力で強制的にエンジン内へ供給される簡易ドライサンプ装置だ。

リヤはモノコックをバッサリと切断してパイプフレーム化しつつ、大型の安全タンクをマウント。競技用と割り切ったメイキングだ。

ラジエターはファンと一緒にキャビン後方へ移設して重量配分を最適化。外気エアをコアへと効率よく導くために、ルーフダクトを設置して取り込んでいる。

コクピットは、ロールケージやダッシュボードなどすべてパブロが自らカスタム。センターコンソールにはオートメーター製のゲージがずらりと並びO2センサーを介して空燃比を調整するコントローラーも装備されている。

助手席側ダッシュボード上に付いているのは、MS3-pro製のECUだ。Tremec製5速トランスミッションを操作するシフトレバーには、スナップオンのグリップを流用。通常のHパターンシフトだが「操作しやすいよ」とのこと。リヤキャリパーを操作する油圧ハンドレバーも装備する。

エクステリアは、パープルのボディカラーをベースにスポンサーでもある勤め先のロゴを大きく入れたバイナルラップを施した。

エアロパーツは、Extreme DimensionsのM-1キットを装備した上で、パブロがオリジナルで製作したアルミルーフスポイラー、アルミトランクスポイラー、リヤディフューザーを装備。無骨なイメージが逆にマッチして戦うドリフトマシンとしての統一感を生み出している。

ホイールは日本でも知名度を高めているXXRの527。タイヤはインドネシアメーカーのアキレス製ハイグリップタイヤS123を装着する。ブレーキキャリパーはZ32の純正を流用し、リヤはデュアル仕様。写真では分からないが、リヤのマルチリンクサスペンションにもカスタムの手が加えられている。

最後に、なぜ一銭の得にもならないパブロのドリフト活動を熱心にサポートするのか聞いてみた。

「ドリフトは難しいから。その一言に尽きるね。ラリーやレースもやってきたけど、その中でもドリフトは一番難しい。パブロはオレたちの中で誰よりもうまいし、センスもある。やり甲斐があるなら、やっぱりチャレンジしないとね(笑)」。

それを聞いて照れ臭そうにしているパブロの笑顔が印象的だった。二人の夢が叶い、パブロが念願のフォーミュラ・ドリフトに出場する日が来ることを願いたい。

Photo:Akio HIRANO  Text:Hideo KOBAYASHI

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