「時代を超越したハンドリングマシン!」オートザムAZ-1のバッジ違い、スズキキャラに乗ってみた

リヤミッドシップにガルウイングドア…コイツは世界最小のスーパーカーだ!

2.2回転のロックtoロックには秘密が…!?

バブル期に登場した軽スポーツカーと言えば、俗に“ABCトリオ”なんて呼ばれるAZ-1、ビート、カプチーノだ。まず1991年5月にビートが、続いて同年11月にカプチーノが発売され、最後発のAZ-1は1992年10月に登場した。

AZ-1にはOEM車が存在し、それがここで紹介するスズキキャラ。発売は1993年1月のことだった。外装におけるAZ-1との大きな違いはフォグランプを内蔵したフロントバンパーくらいなもので、あとはエンブレムやマフラーメインサイレンサー直後に設けられたパネルが異なる程度だった。

そんなキャラは、たったの1150mmという全高がボディの小ささを強調。低く抑えられたフロントノーズ、注目を集めまくりなガルウイングドア、ハイデッキなリヤ周りに大きなウイングなど、全身にスポーティカーの雰囲気を漂わせる。

ドアを上に跳ね上げ、サイドシルをまたぐように運転席に収まる。フルバケットシートが身体をしっかりホールドしてくれて、フロアの上に直接座らされてるようなポジションとアイポイントの低さが尋常ではない。

運転席は前後スライド可能だが、助手席は座面クッションをめくるとフロアに直接ボルト留めされてることが分かる。つまり固定式ということだ。また、シートシェルは樹脂製で軽量な仕上がり。

コクピットは非常にタイトで、ダッシュボード周りには必要な機能がコンパクトにまとめられる。ステアリングはアブフラッグ製Dシェイプに、シフトノブはRAZO製に交換。ズボンの裾を引っかけてウインカーレバーを折ることがあるため、運転席に乗り込む時は細心の注意が必要だ。

垂直ゼロ指針のメーターは、中央に9000rpmからレッドゾーンが始まる1万1000rpmフルスケールのタコメーター、左にスピードメーターを配置。右側には水温計と燃料計が並ぶ。

センターコンソールは上からハザード、フォグランプ、リヤデフォッガーの各スイッチ、その下に1DINオーディオスペースが設けられる。エアコン操作パネルは初代フェスティバ用を縦に装着。スペース効率を追求した跡がうかがえる。

車内の収納スペースが皆無に等しいキャラ。運転席の後ろにはテンパー式スペアタイヤと車検証入れが備わる。助手席後方には、ガルウイングドアの上部内側に装着して直射日光を遮るサンシェード入れが確認できる。

ドアトリム。シートに座った状態でも手を上に伸ばせばドアを閉められるよう、アシストグリップを兼ねるドアノブにはバンドが取り付けられている。また、手巻きレギュレーターから察しがつくようにサイドウインドウの開閉は手動式だ。

サイドシルが厚く、ドアパネルが天地に短いことで、サイドウインドウは高さ10cmほどしか開かない。チケットウインドウと呼ばれるこの小窓だけど、かつては高速道路の入口でチケットを取る時、サイドウインドウを下げても位置が低すぎて、結局ドアを開けていた…という話も聞く。

純正はレビューと同形状の楕円型ミラーが装着されるが、オーナーであるSさんが砲弾型のビタローニ製に交換。台座の部分はフェンダーミラー仕様に使われる化粧パネルを流用。そこにドアミラーをビスで固定している。

ウインドウウォッシャータンクや車載ジャッキが備わるフロントノーズ部。手持ちカバンをひとつ入れるくらいのスペースしかない。本来、スペアタイヤもここに収まるはずだったが(中央部の丸い切り欠きがその名残り)、前面衝突時にタイヤが車内に飛び込んで乗員を攻撃してしまうとの理由から、運転席後方に移設されたという話だ。

アルトワークス譲りとなる、リヤミッドに搭載されたF6A型ターボエンジン。シリンダーブロックは鋳鉄製で、アルミ製シリンダーブロックを採用した後のK6A型よりも耐久性やチューニング適応力に優れているとの声が高い。エアクリーナーはムキ出しタイプに交換され、その手前にはオイルキャッチタンクも確認できる。

背後で回るF6A型エンジンは低速域でも扱いにくさを感じさせず、4500rpm付近から弾みをつけてパワーを高めていく。レッドゾーンは9000rpmからだけど8000rpmを目安にシフトアップしていけば、クルマが小さく軽いこともあって体感的な速さはかなりのものだ。

ハンドリングは独特。自分がいる車体中央付近を軸にクルマが向きを変えていく感覚で、ステアリング操作に対するノーズの動きが超クイックなのである。面白いように向きを変えてくれるし、ノンパワステゆえのダイレクト感もある。

反面、かなりシビアというかナーバスな面も。路面がフラットなら良いが、荒れているところではステアリングが取られがちでクルマもふらつく。ホイール&タイヤを2インチアップしてワイド化もされているため、その傾向がより強くなっているのかもしれない。

また、意外と小回りが利かないことも試乗して分かった。カタログ上の最小回転半径は4.7mで実はこの数値、ヴィッツやマーチの4.5mよりも大きかったりする。つまり、ロックtoロック2.2回転のクイックなハンドリングとよく言われるが、そもそも前輪の切れ角自体も小さいというのがキャラ(とAZ-1)の真実だったのだ。

もちろん、だからといってその魅力が半減することはない。“世界最小のスーパーカー”は、この日本でなければ絶対に誕生しなかった1台なのだから。

■SPECIFICATIONS
車両型式:PG6SS
全長×全幅×全高:3295×1395×1150mm
ホイールベース:2235mm
トレッド(F/R):1200/1195mm
車両重量:720kg
エンジン型式:F6A
エンジン形式:直3DOHC+ターボ
ボア×ストローク:φ65.0×66.0mm
排気量:657cc 圧縮比:8.3:1
最高出力:64ps/6500rpm
最大トルク:8.7kgm/4000rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(FR):ストラット
ブレーキ(FR):ディスク
タイヤサイズ(FR):155/65R13

TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)

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