「セリカコンバーチブルは異常なほど手間をかけて生産されていた!」国内初の電動ソフトトップ仕様を再考する

国内市場で初めてラインナップされた電動開閉式ソフトトップモデル!

トルク型エンジンと5速MTの組み合わせでスポーティさもプラス

どの自動車メーカーにも2ドアクーペや3ドアハッチバックがラインナップされ、若者を中心に市場でもそれらがもてはやされていた1980年代。その真っ只中の1985年8月、FFスペシャリティに生まれ変わった4代目T160系セリカは登場した。

後にGT-FOURが加わったり4A-G搭載モデルがカタログ落ちしたり、ハイメカツインカム採用の3S-FEが追加されたり1.8LエンジンがDOHC化されたり…と、そもそもモデルラインナップが幅広いところに、マメにテコ入れもされてたことから、当時セリカに賭けていたトヨタの意気込みの大きさも分かると言うものだ。

とすると1987年10月にコンバーチブルが発売されたのも、その意気込みの表れだろう。しかも、オープン化に伴う作業は、アメリカはミシガン州にあるボディ架装メーカー、ASC(アメリカン・サンルーフ・コーポレーション)が担当。コストを含めた効率化が最優先される今では考えられないような、手間と時間をかけて生産されていた。

「80年代のクルマで、4人乗りオープンカーのMT車を探していたんです」というのはオーナー。候補としてシティカブリオレ、ファミリアコンバーチブル、年式がちょっと新しくなるけどマーチカブリオレあたりを考えていたところ、セリカコンバーチブルが出てきたんで購入を決定。それから4年半、大きなトラブルはなく消耗品の交換だけで調子良く走ってるそうだ。

T160系セリカで新たに搭載されたエンジンが、ハイメカツインカムの3S-FE型。インテーク側カムからシザースギヤを介して駆動するエキゾースト側カムの採用によって吸排気バルブの挟み角を縮小。シリンダーヘッドおよび燃焼室のコンパクトを実現し、燃焼効率を高めている。エンジン制御はDジェトロ(圧力センサー)方式だ。

ルーフの開閉には油圧式を採用。リヤオーバーハングに設置された専用ポンプで油圧を生み出し、それを受けるシリンダーが伸縮することでソフトトップを開け閉めする。また、ソフトトップの表皮には気温の変化や水、汚れに強いキャンブリアクロスを採用が採用される。

シフトレバー後方に設けられたソフトトップ開閉スイッチ。Aピラー上部2ヵ所のロックを外して、このスイッチを操作するだけでルーフの開閉が可能。全閉から全開までに要する時間は10数秒だから、信号待ちの間でも手軽にオープンにできる。

リヤクォーターウインドウも開閉式となるのがクーペとの違い。その周囲にはオープン時に被せるトノカバー固定用のホックも確認できる。

オープン化に伴ってリヤ周りも大幅に手直しされ、独立したトランクルームを持つ3ボックススタイルへと姿を変えることになった。

トランクルームにはあまり期待してなかったが、実際はゴルフバッグが3つ入るほどの容量を誇る。これなら十分に実用的だし、さらにはフルトリム化も図られている。

フロントウインドウまでの奥行きが短めなダッシュボード。直射日光による樹脂の劣化を防ぐためダッシュマットが装着される。ステアリングスポークに付くのは、シリーズで唯一コンバーチブルだけに標準装備されるオートクルーズの操作スイッチだ。メーターは、スピードメーターとタコメーターの間に燃料計と水温計、両端に電圧計と油温計が配置された6連タイプとなる。

センターコンソールは上段がオートエアコン操作パネル、下段が2DINオーディオスペース。オーディオは、カセット一体型AM/FM電子チューナーラジオとサウンドフレーバーシステム付き4スピーカーが標準装備される。シガーライターの下に確認できるのは左リヤフェンダーに設けられた電動アンテナのスイッチ。

それにしても、ソフトトップを開け放ったセリカコンバーチブルの姿はどの角度から見ても隙がない。個人的には斜め後ろがお気に入りだが、全体的にバランスが整ってるのはリヤがハイデッキになっていないからだと思う。

後席は2人がけ。座面を落とすことでヘッドクリアランスを稼ぐ。

また、背もたれは一体可倒式でトランクスルーも設定されている。

さて、ひとしきり眺めたら試乗だ。ハイメカツインカムの3S-FE型エンジンはスタートトルクからして十分。2500rpmくらいで早めにシフトアップしても思い通りに加速してくれるし、それ以前に上まで引っぱって走るのはこのクルマに似合わない。このエンジンなら4速ATとのマッチングも良さそうで、クルマの性格まで考えたら5速MTより、むしろイージードライブを可能にしてくれる4速ATの方が相応しいような気さえする。

ちなみに、車重は5速MT車で1220kg。同じ3S-FE型を載せるクーペZRに比べてちょうど100kg重い計算になる。その内訳は、左右フロントピラーやカウルサイド、後席周りのソフトトップ収納部などに追加された補強材や、ボディ全体の剛性アップを目的としたドア周りの補強など。その効果(と、個体差も間違いなくある)なのか、街乗りレベルの試乗ではボディが弱いって感じることは無かった。

実は取材当日、雲が低く垂れこめて今にも雨が降り出しそうな天気だったのだが、潮風を受けながら屋根を開けて走ってたら、自然と晴れ晴れした気分になったのは言うまでもない。

■SPECIFICATIONS
車両型式:ST162C
全長×全幅×全高:4410×1690×1320mm
ホイールベース:2525mm
トレッド(F/R):1465/1430mm
車両重量:1220kg
エンジン型式:3S-FE
エンジン形式:直4DOHC
ボア×ストローク:φ86.0×86.0mm
排気量:1998cc 圧縮比:9.3:1
最高出力:120ps/5600rpm
最大トルク:17.2kgm/4400rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(FR):ストラット
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤサイズ(FR):185/65R14

TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)

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