「すべての終わりに・・・」フルチューンFC3Sで世界最速に挑んだ男の物語/エピローグ【DANDY×FC3S最速王座・奪取計画at2010】 | web option(ウェブ オプション)

「すべての終わりに・・・」フルチューンFC3Sで世界最速に挑んだ男の物語/エピローグ【DANDY×FC3S最速王座・奪取計画at2010】

ドライバー、そしてチューナーの思い

 

4速8700rpmで388.717km/h…その時、レーシングビートの記録を超えていた!

 

 

「重力がなくなって音も消えた。未知の世界に入ったんだな…と」

by ドライバー塩井 玲

 

最後のアタックは、スタートからすべて完璧だったんだ。シフトアップもミスすることなく4速まで入って、「さぁ、ここからだ」と。

 

エンジンは、その前の走りでサチュレートした7300rpmを超えてもちゃんと伸びていってくれた。ただ、7600rpmからブースト圧がタレるようになってきたから、アクセルペダルをフロアまで踏みつけたまま、右手で少しずつVVCをひねって、タレる分だけを補うように徐々にブーストアップ。8000rpmを超えて、タコメーターに目をやると8600rpmを指してた。

 

「よし、これなら9000rpmまでイケる!!」。そう確信した時、遠くの方に不気味なグレーの路面が見えてきたんだ。イヤな予感がしたけど、出てる速度が速度だし、避けずにそのまま行ってしまえ、と。

 

4速8700rpmで、そのグレーのゾーンに差しかかった時、突然クルマが前後バラバラの動きを見せて、右に大きく傾いた。とっさに「ヤバイ、スピンモードに入った」と思ったら次の瞬間、いきなり無重力状態になって音もなくなったんだ。なんかヘンな世界に入っちゃったような不思議な感覚。

 

気がつくと、走ってる時は下が白(塩)、上が青(空)だった風景が逆転してて、「これはクルマが逆さまになって空を飛んでるんだ…」とすぐに理解できた。頭の中には、ユーチューブで見たレーシングビートFD3Sのシーンが思い浮かんできて、「今、自分は同じような状況に置かれてるんだ」って思ったよ。

 

滞空時間は長くて、たぶん3~4秒は逆さを向いたまま飛んでたはず。その間、フロントガラスが風を受けて浮いてるのがわかったくらい。

 

でも、ずっと飛んでるわけはなく、いずれ地面に落ちる。そう思って両手はステアリングに、両足はペダルに思いっきり押しつけて、落ちるその時に備えたんだ。

 

落ちた瞬間、言葉ではいい表せないような音とともに激しい衝撃が襲ってきた。ロールケージはツブレて、割れたフロントガラスが粉々になって容赦なく室内に入ってきて。フロントの窓枠で塩を削り取りながら、どれくらい滑ったんだろ? おそらくフットボール場2面分くらいはラクにいってたと思うんだけど、その間にイグニッションをオフ。

 

ようやく止まったと思ったら、燃料ポンプが回り続けてて、やたらとガソリン臭い。「こりゃ急いで脱出しないと火が出るかも」と、シートベルトを外したんだけど、シートに完全に挟まれてまったく身動きがとれない状態。抜け出したくても抜け出せないんだ。

 

そのうちレスキューがきて「だいじょぶか?」って。その間ずっと、消火器のノブに手をかけてたよ。運転席側のドアが開かなかったから、初めは助手席側から出されそうになったけどダメ。次に10人くらいでクルマを起こされて、“2度めの衝撃”を受けたあと、運転席側のドアがこじ開けられて、大男に馬鹿ヂカラでつまみ出された感じ。

 

その場でレスキューから「とにかくイエスかノーかで答えろ」と、いくつか質問があって。これは、まともに受け答えができるかを確認して、脳に異常がないかどうかを判断したかったんだと思う。次に痛いところがないか訊かれたから、腰が痛いって言ったらレスキューが焦って、首にコルセット巻かれて点滴を2本打たれて、救急車に乗せられたんだ。

 

でも、そのうち「コイツはたいしたケガをしてないな…」って思われてからは急にあつかいがぞんざいになって、板バネの乗り心地の悪い救急車で約2時間、ソルトレイクシティの病院に運びこまれたわけ。

 

今思うと、コンボコースの路面状態を一度、下見すればよかったんだよね。でも、それを先に知ってたら思いきり踏めなかったもしれないし。

 

後悔はこれっぽっちもないよ。ダンディはキッチリ吹け切るエンジン、400km/hでひっくり返っても安全なボディをつくってくれて、ふたりですべてをやり切ったんだから、もう十分満足。やりきらないと説明できないし、今回はやりきった結果が、こういうカタチになっただけのこと。

 

ただ、ボクにはハッキリと光が見えていたんだ。もしスピンしてなければ、その先にどんなゴールが待ち受けていたか、ね。

 

 

 

「公式記録には残せなかったけど、実力の高さは証明できたと思う」

by DANDY田中

 

実はスタート前、風が強くなってきてたから2輪は出走ストップ。4輪も、スターターから「行くのは構わないけど、自分の責任で」って言われてたんだよね。そんな状況だったんで、レイの意思を確認したら、「もちろん、行く!!」って言うから、オレもゴーサインを出したんだけど…正直、そう判断したことには悔いが残るよ。

 

でもね、自分がつくったクルマのポテンシャルを目一杯引き出せるドライバーが初めて現れてくれたことは素直にウレシかった。レイはちゃんと踏んでくれたし、マシンのコントロールも確かだったし。それに、オレが出した指示を忠実に守って、ライセンスランでは一度もミスることなく、全部一発でクリアしたし。

 

だから、クラッシュの原因として、まずレイのドライビングミスってのは考えられないね。それと、路面を濡らすほどじゃなかったから、雨も原因だとは思えない。予想以上に荒れてた路面とか強くなり始めた風、あとは水分や油分を取り除くため、オフィシャルがコースになんか撒いてたけど、その3つのうちのどれかが原因だったんじゃないかなと思ってる。

 

ボクにとっては、これが7回めのボンネビル。これまでずっとGTクラスで戦ってきたけど、スピンすることはあっても飛ぶことはなかったから、心のどこかでそこまで心配する必要はないと思ってたんだ。

 

けど、今回のクラッシュで考え方が180度変わった。車検でインスペクターからあれこれツッコまれるたびに、「メンドくさいことばかり言いやがって…」と思ってたけど、なぜ彼らがそこまで口うるさく言ってたのか? それが身に染みてわかったよ。万が一、飛んだ時の安全性までしっかり考えて、クルマづくりをしなくちゃいけないんだって。そこに気づかされたのが、なによりの収穫だよね。

 

実は、2年後にBNR34でボンネビルに出たいっていうお客サンがいて、日本に帰ったらクルマづくりを始めるんだ。ボディ補強を始めとした安全装備に関しては、今回の教訓を最大限に活かそうと思ってる。

 

あとはなんと言っても、公式記録としては残せなかったけど、一瞬でもレーシングビートの記録を上回れたことがウレシイよね。スピンする直前、4速で8700rpmまで回ってたっていうレイの話をもとに補正係数までかけて計算すると、その時点ですでに241.589MPH、388.717km/h出てたんだから。

 

もちろん、クラッシュがなければまだ伸びてくれただろうし、それを考えたらレーシングビートも「オレらの上を行かれた」って気づくはず。そう思うと、まさに“してやったり”の気分になるよ。パフォーマンス的には400km/hを狙える。そんな手応えをハッキリと感じ取れたことも大きな収穫だったね。

 

 
●PHOTO:小林克好(Katsuyoshi KOBAYASHI)/TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)

 

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