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【世界一のスピード違反で逮捕されたスモーキー永田という男】いま明かそう、あの事件の真相を。

2018/11/10 18:00

4m×2mの小さな留置所で最悪の未来を想像しつづけた

 

 

警察に到着。

 

すぐに取り調べがはじまったものの、時間は早朝の6時。通訳を手配するにも時間が早すぎるため、そのまま留置所に送られた。

 

留置所は4m×2mのコンクリート部屋だった。暖房もなく、ちいさい窓がひとつ。固いベッドと壁にしきられたトイレ。

 

「徹夜だったけど、全然眠くならなくて…。気温が1度あるかないかの寒い部屋の中でひとり、頭のなかでは最悪の未来を想像しつづけた。懲役何年かな? 会社潰れるかな? 日本から面会にきてくれるかな? でも、どうせ誰もきてくれないんだろうな! 何年か経って日本に帰ったら、トップシークレットの看板の代わりに違う看板が出てるんだろうな!とか」。

 

 

300km/hを認めたら日本に帰れない!

 

朝9時、ようやく通訳が見つかり、本格的な取り調べが開始された。

 

「とにかく認めたら日本に帰れないなって思った」。

 

じつは、このイギリスでの公道0-300km/hアタックの模様はイギリスの雑誌だけではなく、日本からも取材が来ていた。もちろん、暴走専門ビデオ「ビデオオプション」である。そしてまずいことに取材用にまわしていた車載カメラのビデオテープが、イギリスの警察に押収されてしまったのだ。

 

テープの内容を見られたらおしまいだ。

 

 

「300km/hオーバーがバッチリ録画されていたわけだからね。もう焦ったよ」。

 

ところが、幸いにも日本とイギリスではビデオの規格が異なり、簡単にテープの中身を確認することができなかったのである。

 

ただし、イギリスの法律では、スピード違反はパトカーが制限速度を越えた時点で前のクルマに追いつけなかったら成立してしまう。

 

「おまわりさんはしきりにカメラのことを気にしていたよ」。

 

なぜカメラを積んでいたのか? いったいなんのためにあんなスピードを出したんだ? 矢のような質問が警察官が浴びせられる。

 

「とにかく趣味です!の一点張り。たまたまスピードを出したら、カメラマンがいただけって。どうも警察はMAX POWERを叩きたかったらしいんだよね。チューニングが叩かれるのはどの国もおなじってわけ」。

 

 

奇跡の判決、そしてヒーローへ

 

その日の午後から裁判。

 

「外国人だったから急いでくれたのかな。とにかく“偶然スピードを出してしまったときに捕まってしまった。カメラマンがいたのも偶然。車載カメラが積まれていたのも偶然”で押し切ったんだ」。

 

判決は予想以上に軽い28日間の免停と、3万円の罰金だった。

 

「全身の力が抜けたよね。それから押収されたスープラを取り返してホテルに帰って倒れるように眠ったんだ」。

 

次の朝、帰国のために荷物を整理していたらMAX POWERの取材班から電話がかかってきた。

 

「ナガタか。いま外に出るな! ロビーに新聞記者やテレビ屋が大勢いる!」。

 

 

300km/hオーバーの逮捕劇はイギリス国内で大々的に報道され、自分の想像をはるかに超える大事件になってしまっていることをスモーキー永田はこのときはじめて知った。

 

気づかれぬようホテルの裏口から抜け出すと、まっすぐ空港へ。もうこれ以上余計なことはごめんだ。

 


そして無事に日本へと帰国。

 

それからしばらくして、MAX POWERのスタッフからこんな情報がスモーキー永田の元へ舞い込んできた。

 

「イギリスのクルマ好きたちの間でナガタの人気がヤバイことになっている! 300km/hオーバーで逮捕された伝説のジャパニーズチューナーってね!  ヒーローだ! だから、またきてくれ!」。

 

 

そう、いつの間にかスモーキー永田は伝説の200マイル・モーターウェイレーサーとして、世界中のチューニングファンのあいだで神のような存在になっていたのである。

 

「びっくりだよ。事件以来、海外のお客さんが増えてさ。外国人からサインを求められる機会も多くなったんだ。でも、イギリスにはしばらく行く気がしなかった。塀のなかで過ごしたあの悪夢が忘れられなくてね…。長い人生いろいろなことを経験してきたけど、あれは間違いなく“最悪”のひとつ!」

 

“心の整理”がつくまでには、10年以上の歳月が必要だった。

 

スモーキー永田がイギリスを再び訪れたのは事件から11年後、2009年のことである。